1. 企業概要
- 設立年: 2013年(アボット・ラボラトリーズから分社)
- 本社所在地: アメリカ合衆国 イリノイ州 ノースシカゴ
- 業界: 医薬品・バイオ医薬品
- 主要サービス: 免疫、腫瘍、神経科学、眼科、美容医療、ウイルス性疾患に関する処方薬とバイオ医薬品の開発・販売
- 市場シェア: 世界的なバイオ医薬品メーカーとして高い競争力を保有
- 主要顧客: 医療機関、薬局、政府機関、保険会社
- 上場: NYSE(ティッカー: ABBV)
2. ミッション & ビジョン
- ミッション: 難治性疾患を抱える人々の生活を改善する革新的な治療法を提供する
- ビジョン: 科学の力で人々の健康と生活の質を向上させ、医療の未来を切り拓く
- コアバリュー: 科学主導、患者中心、誠実性、協働、卓越性
3. 会社沿革
- 2013年: アボットから分社化し、独立企業として設立
- 2015年: ファーマサイクリクス(血液がん治療薬)を買収
- 2016年: スターリング・ウィンストン社と提携し、美容医療分野へ拡大
- 2020年: アラガン(ボトックス製品など)を買収し、美容医療と眼科分野を強化
- 現在: 世界70カ国以上で事業を展開
4. 経営陣および従業員情報
5. ビジネスセグメント
- 免疫学: ヒュミラ(Humira)、リンボク(Rinvoq)、スキリージ(Skyrizi)など
- 腫瘍学: イムブルビカ(Imbruvica)、ヴェンブレクスタ(Venclexta)など
- 神経科学: ボトックス、ユブレルヴィ、ヴィエヨンツなど
- 美容医療: ジュビダーム(ヒアルロン酸注入剤)およびボトックス・コスメティック
- 眼科: 乾性眼症および緑内障治療薬
- ウイルス性疾患: HIV・HCVに対する治療薬(カレトラ、マヴィレットなど)
6. 競争環境分析
- 主要競合: ジョンソン・エンド・ジョンソン、ブリストル・マイヤーズ スクイブ、アムジェン、ノバルティス
- 競争優位性:
- 課題:
- ヒュミラの特許切れとバイオシミラーの台頭による収益圧力
- 新薬開発の成功率と規制対応の不確実性
- 医薬品価格への政治的・社会的圧力
7. 技術およびイノベーション戦略
主要技術:
- 抗体医薬、ADC(抗体薬物複合体)、小分子標的薬の研究開発
- 美容医療におけるフィラー技術とバイオエンジニアリング
- 中枢神経系疾患における遺伝子発現・伝達制御研究
研究開発の方向性:
8. リスク分析
- 市場リスク: 医薬品価格抑制策、特許切れによる売上減少
- 規制リスク: 各国の薬事承認・価格制度の変化による影響
- 研究開発リスク: 治験失敗や上市遅延による財務的打撃
- 評判リスク: 副作用・製品問題によるブランド信頼の低下
- M&Aリスク: 買収後の統合失敗や負債増加の懸念
9. 昨年の実績(2023年度)
- 売上高: 544億ドル
- 営業利益: 102億ドル
- 純利益: 66億ドル
- 営業利益率: 約18.7%
- 純利益率: 約12.1%
- 主な成果:
- ヒュミラの後発品影響による減収を、リンボクやスキリージで補完
- 美容医療と神経科学分野での成長が収益を支援
- 研究開発費の積極投資による新薬パイプラインの拡充
10. 主要財務指標(四半期別・2023年度)
四半期 | 売上高(億ドル) | 純利益(億ドル) | ROE | ROA | 売上成長率 | 純利益成長率 |
---|---|---|---|---|---|---|
Q1 | 128 | 20 | 12.0% | 6.3% | -8.0% | -20.4% |
Q2 | 135 | 18 | 10.7% | 5.8% | -5.7% | -21.7% |
Q3 | 141 | 15 | 8.8% | 4.5% | -3.2% | -27.5% |
Q4 | 140 | 13 | 7.5% | 4.0% | -4.1% | -29.8% |
11. 財務情報総覧(過去1年間平均)
指標 | 値 |
---|---|
平均売上高 | 136億ドル |
平均純利益 | 16.5億ドル |
ROE | 9.8% |
ROA | 5.2% |
売上成長率 | -5.3% |
純利益成長率 | -24.8% |
12. 連結貸借対照表(2023年末時点)
項目 | 金額(億ドル) |
---|---|
総資産 | 1,487 |
総負債 | 974 |
純資産 | 513 |
自己資本比率 | 約34.5% |
13. 連結損益計算書(2019〜2023年度)
年度 | 売上高(億ドル) | 営業利益(億ドル) | 純利益(億ドル) |
---|---|---|---|
2019年 | 333 | 93 | 73 |
2020年 | 456 | 103 | 49 |
2021年 | 561 | 123 | 112 |
2022年 | 582 | 130 | 113 |
2023年 | 544 | 102 | 66 |
14. 財務健全性評価
年度 | 負債比率 | 自己資本比率 | 現金等保有額(億ドル) | 信用格付け(S&P) |
---|---|---|---|---|
2019年 | 62.3% | 37.7% | 54.7 | BBB+ |
2020年 | 68.4% | 31.6% | 48.2 | BBB+ |
2021年 | 63.0% | 37.0% | 42.5 | A- |
2022年 | 64.1% | 35.9% | 38.9 | A- |
2023年 | 65.5% | 34.5% | 41.2 | A- |
15. 投資分析ポイント
AbbVie(アッヴィ)は、免疫疾患や神経科学、美容医療に強みを持つ世界的なバイオ医薬品企業であり、成長性と安定性を兼ね備えた投資対象として注目されている。
市場競争力:
- ヒュミラ(Humira)をはじめとした大型ブロックバスター薬を保有
- スキリージ(Skyrizi)やリンボク(Rinvoq)など、ポスト・ヒュミラ戦略が着実に進行
- 美容医療分野(アラガン買収により獲得)でも安定収益
成長可能性:
- CNS(中枢神経系)、腫瘍、眼科領域への積極的な開発投資
- バイオシミラーへの対抗策と新規モダリティの導入
- グローバル市場における処方薬需要の拡大と高齢化に伴う需要増加
財務安定性:
- 安定したキャッシュフローにより、積極的な配当と自社株買いを実施
- 信用格付けはA-であり、堅実な財務構造
ESG・研究開発:
リスク要因:
- ヒュミラの特許切れと競争激化による収益圧力
- 医薬品価格引き下げ政策、特に米国における制度変更リスク
- 新薬開発の失敗と規制リスクによる影響
16. 投資戦略提案
短期投資戦略:
- 美容医療・ボトックス関連売上の拡大や新薬承認などのポジティブニュースを活用したイベント投資
- 四半期決算発表に合わせた売買戦略
中期投資戦略:
- ポスト・ヒュミラ時代を支えるパイプラインの進展に注目
- CNSや腫瘍学での臨床データ進捗を評価
長期投資戦略:
ESG投資戦略:
- 医療アクセス改善、患者支援活動への評価をもとにESGポートフォリオの一部に組み入れ
- 倫理的研究開発体制や製造工程の環境対応を重視
17. 結論
AbbVieは、業界をリードする製品ポートフォリオと多様な成長戦略を持ち、ヒュミラ依存からの脱却を目指す中で、中長期的に安定した収益を見込める企業である。
医薬品市場の構造的拡大、高齢化社会による需要増、配当政策とESG対応のバランスを踏まえた戦略的な投資先として位置づけられる。